「NMN」とは、ビタミンB3群の中に含まれるβニコチンアミド・モノヌクレオチド（β-nicotinamide mononucleotide）という物質で、あらゆる生物の細胞に本来は存在していて、健康寿命に有用性があると言われる生体内物質の前駆体です。本来は体内で自然に組成される物質ですが、哺乳類の場合、加齢に伴い体内で「NMN」の生産能力が減退した結果、身体内で加齢が始まり、様々な身体機能の修復機能が失われていくと考えられています。「NMN」は、母乳や緑黄色野菜（ブロッコリー）やフルーツ（アボガド）などにも含まれていますが、その含有量は微量にしかなく、食品からは殆ど摂取することができません。現在、世界中の研究者たちから注目されていて動物やヒトで検証が進んでいます。

摂取した「NMN」は、あらゆる生物がエネルギーを生み出すために必要で、その中心的な役割を果たす「NAD+」（ニコチンアミド アデニンジヌクレオチド）という補酵素に変換されます。「NAD+」自体は高等学校の生物の授業にでも出てくるよく知られたものです。年齢とともに体内の「NAD+」量が減少し、生み出すエネルギー量も低下することから、若い頃には感じなかった変化が身体に現れます。減少した「NAD+」を補うために、「NAD+」そのものを経口で摂取しても、残念ながら体内には吸収されず分解してしまいます。まずは体内で「NAD+」に変換される「NMN」を摂取することが大切です。分子量が大きく効果的な吸収が難しい「NAD+」量を上げる方法として、「NMN」をサプリメントで補うことが効率的であると証明されています。

「NMN」は2015年1月、NHKのドキュメンタリー番組＜NHKスペシャル＞「NEXT WORLD：～私たちの未来～」で放送され、全国的に知られる物質となりました。しかし元々「NMN」は1960年代に発見されていた物質であり、代謝に関与している可能性がある程度ぐらいの効果効能しか判明されていませんでした。番組では、今後30年間で，老化メカニズムの解明，がん治療研究や治療技術の進展，予知医療の発展などにより，人類の平均寿命が 100歳を超え， 最大寿命140歳も可能になり、その若返りの薬というのが「NMN」であるという衝撃的な内容で世界に衝撃を与えました。同番組では「NMN」研究の世界的権威者として、ワシントン大学セントルイス校医学部今井眞一郎教授とハーバード大学医学部デビッド・シンクレア教授の研究を挙げ、生後2年（ヒト年齢約60歳）のマウスにNMNを1週間投与したら、生後6ヶ月（ヒト年齢約20歳）の運動能力、外観、活動レベル、細胞活性レベル他まで若返ったと報告されたのです。この報道で「NMN」は高い確率で若返り効果への期待の物質とされたのです。不老不死の薬ではないと今井教授自身語っていますが、最近の研究で、老化や寿命のシステムの解明に大きな進歩があり「NMN」の投与が、全身の機能を保持し高めるのに劇的な効果があると判明してきました。

今まで、心血管疾患、腎臓病、糖尿病など成人病と言われる疾患に対してそれぞれ別に薬剤が作られていました。「NMN」の効果が判明するにつれ、それらの疾患は加齢や老化によって進行することが判ってきました（加齢由来疾病）。そこでその加齢・老化を抑制する薬剤として「NMN」を処方することによってそれらの疾患が抑えられることが判明してきました。つまりそれぞれの疾患はマザー疾患とも言うべき加齢・老化に起因するものであるということです。
『一つの病気を食い止めることに前進が見られても、いずれは代わりの病気が現れる。しかしながら老化全体を遅らせられれば、大きな後遺症を残す病気や命に関わる病気のリスクがすべて一度に低下することが示唆される（D.Goldman）』 デビッド・A・シンクレア（東洋経済新報社）

「NMN」は生命を維持するに必須な補酵素です。「NAD＋」の前駆体で、変換され脳の視床下部に働きかけ、その作用により様々な生命維持のための信号を送っています。「NMN」は研究段階とはいえ様々な効果が実証されています。 特に摂取することにより細胞内の「ミトコンドリア」を活性化させます。「ミトコンドリア」は糖分を原料として酸素を使い身体のエネルギー源ともいうべきATP（アデノシン三リン酸）を産生させます（クエン酸回路の反応）。ATPは生物に必要不可欠なエネルギーの供給源であり「生体のエネルギー通貨」とも呼ばれています。 「ミトコンドリア」が衰えてくるとATPが産生が減少し酸素が使われなくなり過剰な活性酸素が産生すると身体に障害を及ぼします。 「NAD+」は長寿遺伝子や抗老化遺伝子とも言われるサーチュイン遺伝子にエネルギーを与え、その活性化を促進し生物の寿命が延びるとされています。サーチュイン遺伝子が活性化すると、細胞内でエネルギー源を作り出す「ミトコンドリア」が増えるとともに、細胞内の異常なたんぱく質や古くなったミトコンドリアが除去されて、新しく生まれ変わる「オートファジー（自食作用）」という機構が働きます。（※サーチュイン遺伝子は空腹時に働きます。食事をすると血糖の上昇を抑えるために「インスリン」が分泌されますが、「インスリン」が働くとサーチュイン遺伝子や自食作用の機構がシャットダウンされてしまいます） また免疫細胞にも影響して身体の中に侵入してきたウィルスや細菌などから守る免疫機構も活性化させるようです。 「NAD+」は「メラトニン」の増加に著しい結果がでています。「メラトニン」は脳の松果体から分泌されるホルモンでサーカディアンリズム（概日リズム）の調節作用をもつもので身体のリズムを整えております。 身体にとって有用な「NAD+」の複雑な働きですが、しかしながら「NMN」の分子生物学的作用は、明らかになっていない部分も多いのも事実です。